研いだ、目立てしたのに切れない..
ソーチェンの目立てについて - Chainsaw Maniac jp


Shinichiro HIDA twitter: _shinichiro_
Created: Mon, May 29 11:32:03 JST 2023
Last modified: Sun, Jun 18 20:42:56 JST 2023

チェンソーが切れなくなってきたのでソーチェンを目立てしたけど、やっぱり切れない..
そういう声をちょくちょく聞くのでちょっと書いてみます。
今回、ちょうど石かアスファルトにあてたと思われる、ひどくダメージを受けたソーチェンがあったのでそれを研いでみました。ソーチェンは STIHL の 63PS3 ピコスーパー、ピッチ 3/8p (背の低いロープロファイル、小型のソーチェンです)、ゲージ .050/1.3mm、カッターのタイプはフルチゼルビット、角刃です。

ソーチェンを研いだのに切れない..

理由はいくつか考えられます。
話が通じないといけないので、まず、カッターの名称から説明してみます。

上刃と横刃の交点、カッティングポイント、カッティングコーナー、ワーキングコーナー

ソーチェンのカッターは水平方向についている上刃(Top Plate - トッププレート) と 垂直方向についている横刃(Side Plate - サイドプレート) で木をそぐように切りすすめていきます。上刃と横刃の交点を カッティングポイント カッテイングコーナー、もしくは、 ワーキングコーナー と呼びます。フルチゼルカッター、角刃の場合はこれらは一致します。一番最初に木に接触して切り始める部分です。
上刃と横刃の交点が面取りされているような形状のセミチゼル、マイクロチゼル、シャンファー(チャンファー)チゼルなど、半角刃とよばれるカッターの場合は、面取りされた斜めの部分が ワーキングコーナーもしくは カッティングコーナー で、上刃とワーキングコーナーの接点が カッティングポイントと呼ばれます。 半角刃の場合、このワーキングコーナーが実質的な横刃として上刃ですくい上げた部分を切り離す働きをします。
石やアスファルト、砂などに接触してしまって、ダメージを受けたカッターは、このワーキングコーナー、カッティングポイントと上刃、トッププレートに大きなダメージを負うことが多いです。ダメージを受けて歪んでたり、メッキが剥がれてしまっていたりする部分はダメージのないところまで研削してクリーンな刃先ができるまで落とさなければ切れるようになりません。
ダメージを受けてワーキングコーナーが内側へ歪んでいるカッターの画像。上刃目立て角もちょっと間違っています(鋭角にしすぎ)。切れないため、ソーチェンが熱をもって汚れが付着している状態です。切った木の種類、チェンオイルの吐出量などの影響も受けるので一概にはいえないのですが、大抵の場合、よく切れる刃には汚れがつきません。
カッターを上方から見た画像 - 上刃、ワーキングコーナーの様子
ダメージを受けてワーキングコーナーが歪んでしまっているカッター。上刃目立て角も鋭角にしすぎ
カッターを前方から見た画像
では、このソーチェンを研いでみます。

[目次] 研いだのに切れない.. いくつかの理由..

あたりが考えられます。これらについて順に説明してみます。

研ぎきれてない場合

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歪んでいる部分、メッキが傷ついたり剥がれている部分は削り落として、クリーンな刃先を作らないと切れません。
よくあるのは、丸やすりを下へ深く入れすぎてしまい、上刃、トッププレートの肝心な刃先、エッジが研げていないケースがあります。研いだ面を目視、もしくはルーペで見る、スマホでズームして写真をとるなどして、確認してください。上刃のエッジまでしっかりやすりが当たっていれば、カッターは均一に光っているはずです。そうでない場合は上刃のエッジまでやすりがあたるように研ぎなおします。
すべてのカッターを同じ大きさ、角度になるように研いでください。
やすりを下へ深く入れすぎると、上刃切削角 (Top Plate Cutting Angle)と横刃目立て角 (Side Plate Angle) が変わってきてしまいます。上刃切削角は 50°あたりが理想です。カッター底部、もしくはリベット中心を結んだ線の延長と、上刃の斜めの部分を結んだ角度です。(一部、トッププレート(上刃)天面との角度で説明してる動画とかあるんですが、それは間違いです。上刃天面はメーカー、ソーチェンの種類ごとに逃げ角のとり方が違いますのでそれを基準にしてはいけません) これも鋭くしすぎるとエッジ部分の強度が不足し、あっというまに切れなくなってしまいます。やすりをカッター上刃の上へ出しすぎ(浅すぎ)て、上刃切削角を鈍角にしすぎると、今度はなかなか切れてくれません。カッターの上に丸やすりの 1/5 程度がでるように研ぐと 50°程度が得られると思います。この角度が切れ味に大きく影響します。研ぎながらちょくちょく確認するのが良いでしょう。
上刃切削角
上刃切削角
今回研いだソーチェンは、何か固いもの(おそらく石かアスファルト)に接触してしまい、ワーキングコーナーが内側へ倒れこんでしまってうまくワーキングコーナーが木にあたらずに切り込めない状態になってしまっています。歪んでしまったワーキングコーナーを歪みのない部分まで削り落とし、上刃目立て角も修正しました。
研削前 ダメージを受けてワーキングコーナーが内側へ歪んだ状態。
ダメージを受けてカッティングコーナーが歪んだ状態
研削後 歪んだ部分を研ぎ落として、上刃目立て角を25°程度に修正した状態
研削後 歪んだ部分を研ぎ落とした
すみません、研削前と研削後の写真、違うカッターで撮影してしまって、汚れ具合など一致してません。申し訳ありません。
なぜ上刃目立て角 (Top Plate Angle) を25°にしたのか?というのは、一般的に、鋭角な刃先は切れ味は良いのですが、強度がないため長持ちしません。すぐに切れなくなってしまうのです。刃先の角度は切れ味と強度のバランスできまります。硬い木を切る場合、長くもってほしい場合には少し鈍角に、柔らかい木を切る場合、耐久性よりも切れ味を優先したい場合には少し鋭角にするのがセオリーです。

Vallorbe の検証動画などによると、もっとも切削速度が速いのは、上刃目立て角 (Top Plate Angle) 30°の時とされており、STIHL のソーチェンの目立て角度インジケーターやファイリングプレートなども 30°でマークされています。ただ、角度が45°に近づけば近づくほどカッターが横へ逃げようとする力が大きくなってしまうのです。そのため、耐久性と速度、パワーロスのバランスを考えてわずかに鈍く 25°あたりを狙って見ました。
なお、STIHL 製であっても、上刃目立て角のインジケーター(カッター末端についている斜めの線。カッターの使用限界サイズを示すとともに、上刃目立て角の目安にもなっている) が 30°でなく、25°(36RH)、20°(36,33RSLF) になっているソーチェンもあります (36RHは間もなく国内投入と噂されています。今のところ国内にはないですが.. 2023-05)。
Oregon 製のソーチェンには上刃目立て角 25°指定のものが多くあります。 Oregon の目立て角度一覧表 (PDF) を置いておきますので参考にしてください。なお、この表にスクエアグラウンドのソーチェンの上刃目立て角(Top Plate Angle) が 45°と書かれていますが、これはちょっとおかしいです。注意書きとして "やすりを 水平方向(トッププレートアングル) 45°、垂直方向(ダウンアングル、チルトアングル)で目立てすると結果として 15°のエッジが得られる" と書かれています。45° はあくまでファイルのアングル( File Angle - やすりの角度) の目安であって Top Plate Angle ではありません。やすりをひねるので実際の Top Plate Angle は 15° - 20°くらいになります。(使うやすりの角度に依存します)
上刃目立て角については、30°以上の角度をつけても良いことはないと思います。(個人的には 20°-25°あたりを狙います) (かつては 35°指定のカッターもありましたが..) ただし、30°、35°にすると、 横刃の切削角(目立て角ではない) がより鋭利になるので、これを優先すると 30°、35°という角度が出てくると思います。
25°の目安はどうつけるのか、という点は、30°よりちょい浅め.. でやってます。Vallorbe のファイリングキットに付属のプレートには 25°のラインがついてるようです。(おそらく Oregon のにもありそうな気がします)

研いでカッターが低くなったのに、デプスゲージを下げていない場合

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カッターには逃げ角が設定されているので、研削するに従って低く小さくなっていきます。木に食い込みすぎて引っかかったり暴れるのを避けるため、カッター前方にデプスゲージという食い込み深さを制限する部分がついています。カッターが小さくなると、このデプスゲージも削って下げてやらないといけません。でないと、木に食い込まずに滑っているような状態になってしまいます。
カッタートッププレート先端とデプスゲージの高さの差は インチで .025"、ミリメートル だと 0.65mm 程度で、デプスゲージジョインターなどと呼ばれる定規を使って調べて、突出している部分を平やすりで研削して低くします。ひっかからないように前方を斜めに削ってスムースになるように仕上げます。すべてのカッターで同じ切り込み深さとなるように揃えてください。デプスゲージを低くしすぎるとチェンソーが暴れますので注意してください。
寿命末期のカッターで限界まで下げられたデプスゲージ
カッターのデプスゲージ
様々なデプスゲージジョインター
3タイプのデプスゲージジョインター
デプスゲージジョインターを当ててデプスゲージの突出量を調べる
デプスゲージジョインターでデプスゲージの突出量を調べる
デプスゲージを削り下げたら再度確認する
デプスゲージを下げたら再度確認する
ちょっとややこしいのですが、メーカーによって名称の不一致があります。カッターの前方にある部分をデプスというメーカーとデプスゲージと呼ぶメーカーがあり、デプス量をはかる定規のことをデプスゲージと呼ぶメーカーとデプスゲージジョインターと呼ぶメーカーがあったりするので、よく混乱します。
デプスゲージジョインターは他にもいろいろなタイプがあるので試してみるとおもしろいと思います。もしもまだお持ちでないなら、目立てキット、メンテナンスキット、ファイリングキット、シャープニングキットなどと呼ばれるものに付属しているので、それを購入されるのも手です。 もちろん、デプスゲージジョインター単体でも販売されていますのでそれだけを購入されるのも良いでしょう。

ガイドバーにバリが出ていてカッターが食わない

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目立ては完璧、デプスゲージも揃えた。一瞬、すっと切れ込むのにすぐに引っかかった感じで切り込まなくなる..
こういう現象が起こることがあります。
試しに、チェンソーからガイドバーを取り外し、バーレールのふちを爪で触ってみてください。あまり切れないソーチェンを使っていると、切るときに力を入れてソーチェンを木に押し付けるため、ガイドバーが摩耗してソーチェンと接する部分にバリが出てしまうことがあります。
ガイドバー バーレールのふちにでたバリ
ガイドバーふちにでたバリ
ガイドバードレッサー、ガイドバー バーレールドレッサー、バーレールレベラーなどという道具を使うか、あるいは平ヤスリで上下左右、両側均等にバリを削ってください。
ガイドバーは定期的 (掃除するたびとか使うごととか) にガイドバーの上下を反転させて均等に摩耗するように使いましょう。(取説に書いてあります)

横刃 (サイドプレート) 下部、ガレット部分が横に張り出して邪魔をしている

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カッターを何度か目立てして研いでいくと、横刃の下部、ガレットの削り残しができてきます。これが抵抗となって切れ味が低下することがあります。(切削屑の排出に影響しているという話もあります)
デプスゲージからカッター横刃 (サイドプレート) にかけての部分を、上から見て横方向への突出がなくきれいな直線となるように丸やすりなどで削ってみてください。
寿命末期のカッターのガレットの状態 - 横から
寿命末期のカッターのガレットの状態
寿命末期のカッターのガレットの状態 - 上から
寿命末期のカッターのガレットの状態 上から
スクエアグランドファイリング用の資料なのでちょっと違いますが、丸やすりで研いだ場合も同じようになるので参考になると思います。 US のチェンソー関連用品店 Madsen's のガレット処理に関する資料 です。 Wrong は 誤った、よくない、Right は 正しい、良い です。
最後に、 すべてのカッターをできるだけ同じ大きさ、角度、形に揃えること がとても大切で、かつ難しい点です。
それでは、皆様、本日もどうぞご安全に。